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小保方さんもびっくり!同性婚のために生まれた「ディープ・キャンバシング」論文不正事件とは

photo by dirkcuys

さて、前回偏見を減らすための有効な方法である「ディープ・キャンバシング」について紹介しました。多くのメディアでは「ディープ・キャンバシングは効果があるよー、心を開いた対話は大事だね」的なまとめになってるわけですが、調べていくうちに面白いことを見つけました。実は、ディープ・キャンバシングには、小保方さんもびっくりの「捏造・論文取り下げ」ドラマが隠れていたのです。ディープ・キャンバシングの話と一緒に書くと、焦点がぶれそうな気がしたので、別エントリとして書くことにしました。

以前にも『サイエンス』誌に発表されていた

ディープ・キャンバシングの効果に関する論文が『サイエンス』誌に発表されたのは、実は初めてではありません。

ディープ・キャンバシングを編み出したLGBTセンターのデイビッド・フレッチャーは、効果を図るために、研究者による調査をしてほしいと考えていました。そこで、フレッチャーはUCLAの博士候補生であったマイケル・ラコーアに調査を依頼、彼とコロンビア大学の著名な政治学者ドナルド・グリーンをアドバイザー及び共著者とした論文が2014年12月に『サイエンス』誌に発表されました。

「ゲイの運動員の個別訪問によって人の意見は変えられる」とする調査結果はニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、ワシントン・ポスト、ロサンゼルス・タイムスなど、多くの主要メディアで取り上げられて大変な話題となりました。ちょうど当時同性婚が大きな話題になっていましたしね。

捏造を暴け!

しかし、UCバークリーの二人の学生デイビッド・ブロックマンとジョシュア・カヤが、この方法論がトランスジェンダーに対する偏見にも適応されるのかどうか調査しようとした時から、この研究に疑問が生まれます。詳細はこちら。

もともとは学会でラコーアとご飯を食べるような仲であった大学院生のブロックマンがラコーアの調査の不正に気づいていくくだりは、ミステリー小説を読むようでめちゃくちゃ面白いです。

ラコーアの研究を見つけて、「すごいなー!」と思ったブロックマン。(自分はトランスジェンダーについて同様の調査をしよう)と考え、調べていくうちに、「この研究をするとなると1億円くらいかかるぞ。一体どうやって調査をしたんだー?」と不思議に思いはじめます。ラコーアが利用したとされている調査会社に電話をして「これと類似の調査をしたいんですが」と問い合わせるも、調査会社からは「そんな調査をしたことはありません」と返答。研究に使われた生データを入手することで「怪しい」と疑惑が膨らんできました。しばらくはネット上の匿名掲示板で「このデータのノイズ分布おかしくない?」などと問いかけるのみだったブロックマンですが、ある時ラコーアにメールで質問した結果、明らかに彼が嘘を付いていることをつきとめます。ラコーヤが調査会社からのメールを転送したように見せかけていましたが、調査会社に問い合わせたところ、そんな名前の従業員はいないことがわかったのです。そもそもラコーヤは調査会社を利用してすらいなかったのでした。

当時まだ大学院生で、スタンフォード大学で仕事を始めようとしていたブロックマンに対して、この不正を追求するよう奨励した人はほとんどいませんでした。多くの人は「新人のうちに、そういう不正研究を暴くような追求をしても見返りが少ない」と考えており、そういう仕事はすでにそういう「インチキを見破るプロ」として有名な学者たちに任せておけばよいと考えていたのです。就職先が限られている若手政治学者という狭い世界で、誰かの業績にケチをつけることは、得にはならないというのが一般的だったのです。

しかし、ブロックマンたちはラコーアによるデータを盗用した確固たる証拠をつきとめ、もうこれは見逃せないでしょうということでレポートにまとめて発表します

ブロックマンらの指摘を受け、共著者のドナルド・グリーンは、すぐにサイエンス誌に論文の取り下げを申請しました。ラコーアは「方法論は間違えたけど、結果は正しかった。生データはプライバシー保護のために削除してしまった」などと言い訳してたようですが、スキャンダルによってプリンストン大学で内定していた職を失いました

ラコーアの嘘

結局、ラコーアが行っていた不正は以下のとおり。

  • データの捏造・盗用
  • スポンサーについての虚偽
  • 使った調査会社についての虚偽
  • 履歴書の嘘

論文取り下げの決定打となったのは、データの捏造でしたが、他にもいろいろ嘘つきだったんですね。履歴書の「受賞歴」とかにも嘘を紛れ込ませており、それを追求したジャーナリストに対して白々しい嘘をついています。 

いやー、びっくり!*1

フレッチャーのショックと、リベンジ

ラコーアの捏造がわかった後、LGBTセンターのフレッチャーは、激しくショックを受けました。2年間協力していたと思っていたラコーアに嘘をつかれており、自分が信じるディープ・キャンバシングを支える証拠がなくなったのです。フレッチャーは調査に協力してくれた人々や、このニュースを取り上げてくれたジャーナリストに連絡し、研究に不正があったことを伝えなければなりませんでした。

しかし、フレッチャーはこの方法論を諦めませんでした。ブロックマンとカヤは、トランスジェンダーへの偏見をテーマにフロリダでのディープ・キャンバシングの調査を成功させ、今回の発表へつながりました。内容はラコーアのものとは微妙に異なり、ラコーアの研究が「運動員がゲイの場合のみ有効」としていたのに対して「運動員がシスジェンダーの場合でも有効」など、微妙に異なっています。また、データの取り扱いについても、この研究は非常に透明性があり、意義のあるものだと評価されています。


「ディープ・キャンバシング」には、こんな歴史があったんですねー。若手研究者たちのおかれた激しい競争など、いろいろな要素が絡み合っておきた事件だと思いますし、それでもまるでサスペンスドラマのように一気に引き込まれてしまいました!


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*1:ちなみに、マイケル・ラコーアは、今「マイケル・ジュルス」という名前で「データ・サイエンティスト」として起業し、データを分析したり、インタラクティブなインフォグラフィックを作るようなファームをやってるようです。もともと優秀な人なんだと思いますが、一度嘘とか捏造をした人はなかなか信用する気になれませんね。http://beautifuldataviz.com/