#あたシモ

アメリカで働くレズの徒然

「妊娠を公表するのは安定期まで待つべき」?秘密にするともっと辛くなる。「初期流産」の経験はもっと広く語られてもいい

photo by dawn_perry

人気ビデオブロガーの告白

アメリカには、自分たちの生活を毎日のようにYouTubeで公開するvlogger(ビデオブロガー)がいます。まるで、リアリティー番組のスターのように、ファンがいっぱいいるんです!

サム(Sam)とニア(Nia)も、人気のビデオブロガー夫婦です*1。先週彼らの作った「夫が妻に妊娠を報告する」という動画*2バイラルしました。

しかし、今週になって二人は、流産をしたことを涙ながらに発表。ネット上で波紋を広げています。

この動画に対しては、追悼のコメントだけではなくさまざまな反応が出ていて、「そんな個人的なことを全世界にネットで公開するなんて信じられない」「はじめから妊娠ってウソだったのでは」なんてものまでいろいろ。確かにそういう個人的なこといちいち公開する神経が理解できない人がいるのもわかりますが、毎日の生活を公開して人気を集める「ビデオブロガー」「ユーチューバー」とその視聴者というのは確実に増えていて、それ自体はもうとまらない流れだと思います。あのジャスティン・ビーバーだって始まりはYouTubeでした。

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「妊娠を公表するのは待つべき」のか?

そんななかで「だから、普通の人は妊娠12週経つまで、妊娠を発表しないんだよ!(もう少し妊娠の公表するのを待ったらよかったのに)」的なコメントをめぐる対話に考えさせられました。

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確かに、安定期に入るまで、妊娠を公表しない、というのはよくある話です。「流産の危険性が高い早期に妊娠を公表して、万一流産したら気まずいから」ということなのでしょう。しかし、その気まずさとは一体「誰にとって」の気まずさなのでしょうか?

悲しみを処理する時一般に言えることですが、流産の経験もまた、秘密にしている方が辛く、人と悲しみを共有した方が、早く傷が癒えると言われています。先日「生理はいつも『隠すべきもの』とされていて、その辛さについてオープンに話すことが難しくなっている」という状況に対する疑問を書きましたが、妊娠や流産も、置かれている状況は似ているのかもしれません。

もちろん、個人が妊娠をいつ公表するかは、本人の自由。だから待ちたい人は待てばいいと思います。流産した経験だって、人と共有したくない人もいると思うし、秘密したい時もあるでしょう。でも、早期に妊娠を公表して、流産のことも公開して悲しんでいるカップルに対して「安定期まで公開を待つべきだった」という意見には、違和感を感じました。ある意味「流産したことをそんなにおおっぴらに話すな!」と言ってるわけですからね。それに、安定期を過ぎたとしても流産の危険はいつでもあるわけですから。

むしろ、流産という普段あまり語られない経験と、その悲しみについてこのようにオープンにしてくれたことを、励みに感じる人も多いのではないかと思いました。

Facebookマーク・ザッカーバーグも自らの体験を共有

FacebookのCEO、マーク・ザッカーバーグもちょうど先月末に妊娠報告とともに過去の流産経験について個人的な投稿をしていました。←もちろんFacebook上です。

www.facebook.com

「一つの経験を共有することから始めたいと思います。私達は、ここ数年間ほど、子どもを授かろうとずっと努力してきたのですが、3回流産しました。

子どもができる!と知った時はものすごく希望に満ちた気持ちになります。どんな大人になるのだろう、どんな未来が待っているのだろうと夢を見はじめます。将来の計画を立てはじめるのですが、突然それらはなくなってしまうのです。とても孤独な体験です。多くの人々は流産という経験について語ろうとしません。まるでそれがあなた自身のせいで、あなたが何か悪いことをしたり、あなたに何か問題があると思われてしまうと思うからでしょう。だから、あなたは一人で苦しむのです。

しかし、今日の、オープンでつながった世界においては、このような物事は、私達を遠ざけません。それは私達を親しく近づけ、理解と寛容を生み出します。そして、それは私達に希望を与えてくれるのです。

私達が友人と語り合いだした時、それがどんなによくある話なのか改めて知りました。たくさんの人が似たような経験をしていて、でも、ほとんどの人々は結果的に健康な子どもを授かっているのです。

私達のこの経験を共有することで、多くの人々に私達が感じたような希望を感じてもらいたいと思っています。そして多くの人が自分の経験を話すことに対して心地よく感じてくれることを望んでいます」

共有することの力

まあ、マークの場合は「最終的に妊娠できた今だからこそ流産の過去を公開できたのな?」とも思うし、最後にハッピーエンドが待っているかどうかわからない状況でも、リアルタイムで不妊治療や流産について語るのは、相当辛いことですよね。辛い思いをした時に、リアルな友達に共有できなくても、ネットで体験談を検索したり、フォーラムで仲間を探したりするだけでも、楽になることってあると思います(逆に仲のよい友達だけに言って、FacebookTwitterなどでは言わないというパターンも多そう)。

日本語でもネット上のピアサポートグループがあります。

pocosmama.babymilk.jp

有名人が流産した過去をオープンに語るのを聞く、というのも、人にとっては救いになるかもしれませんね。日本でも山田優が自らの体験を語ったことが話題になりました。

matome.naver.jp

流産は全妊娠の10~15%と高い確率で起きているそうです。←知らなかった。ということは、言っていないだけで「流産経験者」は周りに結構いるのかも。誰もカムアウトしていない社会では、ゲイのひとりひとりが本当は仲間が沢山いるにも関わらず「ゲイなんて自分だけだ……」と、孤独を感じてしまうのと、似た構造だと言えます。

マークも書いているように、一人ひとりがオープンになることで、人は苦しんでいるのは自分だけじゃない!と気づいて楽になれるのです。

流産体験を話してくれたレズビアンカップル

一連の論争を読んでいて、ふと思い出すことがありました。実は、この前遊びに行ったレズビアンカップルなのですが、今年の初期に、早期流産をしていたのです。わたしの友達は30代前半で、彼女の婚約者は30代後半です。今年の始めに友達が「婚約者が妊娠4週目なの!」と教えてくれたのですが、わたしはメールを見るのが遅れ、翌日「やったネ!!おめでとう!」と祝福したら「もう違うの。流産した」と返信が。

あまりの間の悪さに何と返事してよいかわかりませんでした。「アイ・アム・ソー・ソーリー。大丈夫?」と送るのがやっとで、あ、どうしよう……これってあんまり触れちゃいけないことだよね。と思ってしまって。人にも言わなかったし、本人にもどこまで聞いたらよいかわからなくて。その後、その二人と会った時も、流産の話はできませんでした。

でも、この前二人の家に遊びに行った時、子どもの話をしていたからだと思いますが、流産した時の話を教えてくれました。妊娠するために打っていた薬のこと、お腹への注射は痛くないけど、おしりへの注射が痛くて大変だったこと、妊娠した時、画像で受精卵を見せてもらった時、どんなに嬉しかったか。そして、その後、薬を打ち続けたけど、具合が悪くなり、薬を打つのをやめたとたん、流産してしまったこと……。

穏やかに語る二人の話を聞きながら「あ、この話は、二人にとって、秘密にしてほしい話とか、避けたい話ではなくて、話したい話だったんだな……」って気づきました。←鈍い。

ちょうど週末にそういう経験をしたところだったので、この流産告白をめぐる話はすとんと胸に落ちるものでした。

*1:二人は高校時代からのカップルで、『とびら開けて』の口パクビデオで有名になりました。

https://www.youtube.com/watch?v=gavEC5aWAzM

*2:妻の生理が遅れていることを知った夫が、妊娠検査薬で妻のトイレに残されていた尿をチェックして妊娠を確認←それもどうなのよ。つーかトイレ流せよwwwというつっこみはさておき