#あたシモ

アメリカで働くレズの徒然

つきあってた彼女から「生まれた時は男だった」と告白された時の話

LGBTというのは、レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーの略で、このうち、前者のLGBは「性の対象」つまり、性的指向の話であるのに対して、最後のTだけは「自分が自分のことをどう捉えてるか」つまり、性的自認の話だ。

ここを分けるのが重要で、つまり、Tだけは他のカテゴリとは別の切り口の話なので、TのなかにLGBの人もいるし、LGBのなかにTもいるのだ。

わたしがLGBTについての話をするときは、自分がそうなので、どうしてもゲイ(なかでもレズビアン)の話が多いけど、自分のなかではトランスでありながらLGBであるという人のこともいつも意識しているつもり。それは、友達にそういう人がいるからだし、何より昔トランス女性とつきあったことがあるからだ。今日はその思い出を書いてみる。

非モテ時代

その頃、わたしは大学生で、新宿二丁目のイベントで知り合ったSちゃんという不登校中の女子高生に恋をしてた。年下なんだけど、ダンサーっぽくてなんか大人っぽかった彼女の真似をしてヒップホップだとかを聴いてダンサーになろうとしていたわたし←ダサい……(-_-;) Sちゃんは色黒で、目がクリクリで、可愛くて、思わせぶりで、周りからは「絶対行けるよ!」とか言われてわたしもすっかりその気になってたんだ。けど、なかなかどうしてSちゃんのガードは硬く、何ヶ月経ってもわたしが「友達以上」になれる見込みはなさそうだった。

その日も、二人で渋谷で一日遊んで、めちゃくちゃ楽しいんだけど、何か物足りなかった。

「ねえ、この後二丁目行こうよ!」

勇気を振り絞って誘ったのに、Sちゃんは笑っていった。

「今日はやめとく」

そろそろSちゃんのことを諦める潮時だった。わたしは井の頭線ではなく山手線に乗り込んだ。

出会いは新宿二丁目

Sちゃんのことを諦めようと心に決め、新しい出会いを求めて訪れたのは、今はなき老舗のレズビアンバーだった。店は混み合っていて、わたしはすぐ素敵なお姉さんを見つけた。ノンケっぽくて、めちゃくちゃ素敵なキャリアウーマンで、同じようにノンケっぽい友達と一緒に来ていた。

お姉さんは法律事務所でパラリーガルの仕事をしてるという。へえ!なんかかっこいい!法律事務所で働くことに憧れていたわたしは、お姉さんを質問攻めにした。お姉さんはバイセクシャルで、最近までカレシがいたんだけど、別れたからまた、女の子もいいかなーと思ってこの店に来た……みたいな話をしてくれた。

それまで年下に片思いしてたけど、あぁーやっぱ、こういう年上の人もいいなー♡と思ってたら、お姉さんは突然「終電があるから帰らなきゃ!」と、友達と一緒に帰ってしまった。連絡先は教えてくれたんだけどね。わたしも終電で帰ってもよかったんだけど、なんかやっぱりその夜は、物足りなくて。Sちゃんのことを諦めようと思ってたせいもあるけど、寂しかったんだよね、多分。だから、オールして朝までいることにした。お姉さんが一緒に来てた友達もそれまでずっと横で別の誰かと話してたらしいんだけど、帰っちゃったから、その誰かとわたしはそこで顔を合わせることになった。

それが「Jさん」だった。 うん。 普通の出会いだよね。 まったくもってよくあるありふれた普通の出会い。

整った顔つきのJさんはかなり目立つ美人だったけど、お互い話してた相手に帰られてしまって「取り残された二人」として自然と会話を始めた時は、別に口説こうとか全然思ってなかった。

「パラリーガルのお姉さんの電話番号貰った!」っていうので頭が一杯だったし。むしろ「Sちゃんはもう諦めて、お姉さんに行った方がいいですよね?」って恋愛相談したいくらいだった。それに、背が高くてクールな感じのJさんは、さっきまでいたどフェムで女っぽいお姉さんの友達みたいな人がタイプなんだろうなーって思いこんでた。

Jさんも、何かかっこよい仕事してたんだよね。IT系っての?わたしにはよく理解できなかったのだが、世界をまたにかけて自由に生きてるように見えた。←というか、バーで初対面の時に職業ばかり聞きまくっていたわたしマジでイタい(-_-;) 多分当時学生で、自分も将来あれをやりたいとかこれをやりたいとか海外行きたいとか言いまくってたんだろうなー。

それで、どういう話の流れか忘れたけど、お互いのタイプの話になった。

「Jさんは、どんな女の人がタイプなんですか?」

「うーん。難しいなー」

「じゃあここにいる人だと誰?」

わたしは小声で囁いて店を見渡した。その時、わたしたちはカウンターに隣り合って座ってた。遅い時間なのに、店にはまだかなりの人数が残っていた。見るからにボーイッシュなタイプ、ギャルっぽい子、ピアスをたくさんつけたパンキッシュな感じの子……。

わたしは口説こうと思ってその質問をしたわけじゃないんだけど、突然Jさんが口ごもりだした。

「えーっと……」っととか言ってカウンターの下でわたしのことをツンツン指さしている。

えっ。ええええええ!???わ、わ、わたし?????わわわわわたしなのぉ??えええっ。

その瞬間からわたしもJさんのことをめっちゃ意識することになってしまった。←単純。

「明日も会おうよ!」

それから学校の後、毎日のように会いに行ってご飯を食べては遊び、週末は一泊旅行に行き、出会ってから一週間後には正式つきあうことになっていた。

進展はやいよね

Jさんとの進展があまりにもはやいというかめちゃくちゃで驚くが、実は、わたしはちゃんと女の人と正式につきあうのはこれが初めて。その前にも同級生とちょっと微妙な関係にはあったのだが、正式にはつきあってはいなかったので。

というわけで、当時のわたしは恋愛経験が浅くて、何をどうすすめればいいのかよくわからなかったんだよね。

……あとJさんは、仕事で東京に来ているだけで、本来は離れた街に住んでおり、プロジェクトが終わると帰らなければいけないので、 そーゆー事情もあって、ちょっと急いだ展開になってしまったのだ。

パラリーガルのお姉さんとも、連絡をとっていたのだが、「あの時、あなたが帰った後に知り合った人とつきあうことになりました」とは何となく言えず、だんだん疎遠になってしまった。

「生まれた時は男だった」

プロジェクトが終わり、地元に戻ったJさんと遠距離恋愛がはじまった。でも、毎日のようにビデオ通話とかしてたし、メールもしまくっていた。しかし、一ヶ月くらい経った時「話がある。実は生まれた時は男の身体だった」と言われた。

その時のことは今も覚えてる。ビデオ通話ではなく、階段に座って電話してたんですが、聞こえてたのに「え?」と聞き返してしまった。

「男の身体で生まれた。。。」つまり、Jさんは手術後のトランス女性だったのです。

それから、何を話して電話を切ったのかはよく覚えてない。

しばらくして彼女から「ぼくのバラ色の人生」という映画が送られてきた。何度も観た。この時、二人は遠距離で毎日会う感じではなかったので、自分ひとりで消化しようとしてたのかな。

わたしはJさんと出会う前からずぅーっと日記を書いていて、Jさんと出会った時も、このカムアウトをされた時も、リアルタイムに日記を書いていたはずなのだけど、素直に「今日あったこと」を書くスタイルのものではなかったので、資料的価値は全然ない。何を考えてたんだろう。もっと素直に書いておけばよかったなぁ。

遠距離恋愛の間は、一ヶ月おきくらいにお互いの家を行き来してたんですが、その次にJさんの家を訪れた時には、堰を切ったように、いろいろ聞かされて、いろいろ見せられた。男時代の写真とか、「切りとったモノ」を記念にかたどったものだとか、あと、いろいろなサイズのガラス棒を定期的に自分で挿入して手術で作った「穴」をキープするのだとか、いろいろ学んだ。

Jさんには学生時代からずっとつきあっていた彼女がいて、でも彼女はJさんが「女性化」するのに耐えられなくて別れたそうだ。その彼女の写真を見た時は、複雑な気持ちになった。二人があまりに完璧で幸せそうなノンケカップルに見えたから。嫉妬?そうかもしれない。

なんで気づかなかったのか。

ぶっちゃけて書くけど、Jさんからカムアウトされる前に、わたしとJさんには肉体関係があったし、Jさんの下半身を見たこともあった。それで「えっ……?」と思ったことがないと言えば嘘になる。しかし、当時のわたしは非常に経験が浅く、どこがどうなっていて、どこをどうすればいいのか?というのもよくわかっていなかった(恥)。なので「まあこんなものなのかな?」と思ってしまっていたのだよね。

映画『ボーイズ・ドント・クライ』の元になったブランドン・ティーナの話でも、「彼」が実は女性の肉体を持っていたとは多くの人が知らず、なかには、ブランドンとつきあった元カノたちですら、彼が生まれつきの男だと思い込んでいた、ということがあった。その話だけ聞くと「本当に?」と思うかもしれないけど、本当に頭から思い込んでると、意外に気づかないものなのだ。

おかしいなと思ったこともある。突然生理になってしまったわたしが何の気なしに「ナプキン持ってる?」と聞いた時のこと。Jさんは非常にうろたえて、「私は子宮内膜症でうんぬんかんぬん……」と長い説明をはじめ「手術で子宮を摘出してしまったので、生理はこない」と言うのだ。お、おう……大変だったのね、と思いながらも「ナプキン持ってるか聞いただけなのに、何か話が大げさあなあ」とちょっと違和感を覚えた。

でも、これも後から思い返してみれば、という程度にすぎない。

Jさんとトランス友達

基本的にはわたしがぜ~んぜん気付かなかったように、Jさんは、かなりパス度が高く、職場を含む周りの人には100%パスしていた。わたしたちのレズビアン友達も本当に仲のよい一握りを除き、ほとんど知らなかった。Jさんは隠してるわけではなかったと思うが、普通に接してたら皆Jさんをトランス女性とは思わないんだよね。レズビアンのイベントのなかには「戸籍上女性」という縛りのものが結構あって、そういうのを見る度にわたしはストレスを感じた。でも、Jさんは身分証も女性になっていて、イベントには入れてた。

一度Jさんが「ネットで知り合ったトランスの後輩と会う」と言ってわたしもついていったことがあった。トランスの後輩はまだ移行を始めたばかりで、正直ちょっと不自然な感じもあったけど、とても優しくて、当時流行ってた写真集をわたしにプレゼントしてくれた。Jさんと二人でいる分には、わたしは彼女がトランスだとかそういうことをちっとも意識しないですんだが、彼女のトランス友達と一緒にいると、わたしは、社会のなかで自分たちはマイノリティなのだと痛感してしまった。彼女になんて話しかければいいのか、どういう風に接すればいいのかわからなくて、もじもじしっぱなしだった。

Jさんとの別れ

半年くらい遠距離恋愛をした後、Jさんは、わたしの住む東京に引っ越してきた。でも、急に変わってしまった距離感を調節するのは難しかった。まだ実家に住みながら家族にカムアウトしていなかったわたしは「一緒に住みたい」というJさんの思いに応えることができず、他にもいろいろすれ違いが勃発して、結局わたしたちは1年弱で別れてしまった。

もう信じられないくらい昔の話だ。

それから、ケイトリン・ジェンナーが大きな注目を集めるなど、トランスジェンダーをめぐる環境が大きく変わった。また「男の娘」などの昔はなかったようなコンセプトもどんどんでてきて、性別移行することや異性装への社会の見方も変わっていると思う。それでもまだまだLGBとTの間には大きなギャップがあるように思う。TにはT特有の問題があって、だからといって「TはTはあっち側」というわけにはいかない。TとLは排他的に別物なのではなくて、「Lでありながら、同時にT」っていう人がたくさんいるんだよね。そういうことを考えるたびに、わたしはJさんとつきあっていた時に学んだことや、気づいたことを思い出す。