#あたシモ

アメリカで働くレズの徒然

平等を求め戦った実在のレズビアンカップルを取り上げた映画『ハンズオブラブ』感想と、今後気になるL系映画2本ご紹介

以前も一度紹介しましたが、ジュリアン・ムーアとエレン・ペイジが、実在のレズビアンカップルを演じた映画『ハンズオブラブ(原題:Freeheld)』を観たので感想!

あらすじ

2005年の10月、ニュージャージー州の警察官として23年間働いてきたローレル・ヘスターさんは、末期肺がんの診断を受けた後、自らのドメスティック・パートナーのステーシー・アンドレさんに自分の年金受給の権利が受けられるように、オーシャン郡の立法委員会に繰り返し訴えました。

ヘスターさんの同僚が亡くなれば、その異性のパートナーに年金は遺されます。でもヘスターさんのパートナーは「女性」だから、それができない……。

「わたしは、特別な権利を求めているわけではありません。『平等』を求めているだけなんです」

五人の委員は共和党の男性たちで占められており、ヘスターさんの訴えは何度も拒絶されました。一刻一刻と失われていく残り少ない時間。果たして、ヘスターさんの思いは通じるのでしょうか?

感想

映画のモデルとなったローレルさんとヘスターさんには尊敬を覚えるが、映画自体は残念ながら、いたって普通だった。

……というか、レズビアン当事者としては、エンパワーというより、むしろ脱力してしまうようなものだった。これは、いちレズビアン当事者であるわたしの願望とかが入った、かなり偏ったレビューであることを告白しておく。

無力すぎるエレン・ペイジ

結論から言うと、これ、エレン・ペイジは、配役ミスだったのではないかな。年の差があったカップルなのは理解できるけど、ただでさえ童顔のエレン・ペイジは、ちっとも魅力的ではなく、スクリーンの中での二人は親子にしか見えず、恋人っぽさが感じられなかった。

ジュリアン・ムーアの演技がよかった分、これは残念だった。仕事で長い間主人公ローレルとパートナーを組み、ローレルに淡い思いを寄せている同僚の男性刑事をマイケル・シャノンが演じているのだが、この二人の間の絆の方が説得力があると思ったくらい。むしろ、この二人が夫婦で、エレン・ペイジが娘……て言う方がしっくり見えてしまって辛かった。

映画の最後にリアルな二人の写真が出てくるが、リアルなステーシーの方がずっと素敵で、二人がつきあってるのは納得だった。エレンは、小柄すぎるし受け身っぽすぎる。てゆーかあの髪型とか、何とかならんかったのか。ステーシーの役には、もっと「強さ」が必要だったと思う。エレンは、始めっから最後まで、泣きべそをかいているし、車のメカニックに雇われるためにタイヤ交換の腕を見せるところなども、素直にかっこよい!というよりは、お姉さんハラハラしちゃうという感じ。ステーシー役には、もう少し、ブッチっぽくギラギラした役者を配役して欲しかった。*1

また、エレン・ペイジ演じるステーシーは、外見以外にも、かなり役立たずな感じでイライラした。映画のなかのステーシーは一応優しく愛情深い恋人ではあるのだが、ガンの告知を受けた後、イライラして車の中でクラクション鳴らしまくったり。なんとゆーか、いや、そこはあんたが大人になってちょうだいよ、と。実際に、年金のベネフィットを求めて、郡にかけあっていくのも、元同僚やゲイリブ団体(←かなり同性婚ムーブメントを茶化して笑いものにはしているし、最後までローレルは「同性婚」という言葉を使うことを拒否する)に頼っていて、むしろ、エレン・ペイジ演じるステーシーは受け身な感じ。唯一最後のスピーチの内容も「私たちは平均的な市民で、税金払ってます」的なので、ものすご〜く冷めた。

実際には、ステーシーはローレルの側で支え、看病し、愛情を与えるという非常に大事なケアをしていたのだろう。しかし、映画が、郡政府への働きかけを中心に描いていて、ステーシーの献身の意味合いが過小評価されているように見えた気がする。アクション映画で、女性キャラクターが弱くてめそめそで役に立たないように描かれているとイライラするんだけど、同じような苛立ちを覚えた。「パートナー登録してるレズビアンの恋人でも、こんなに無力なんだ」って打ちのめされた感じになりました。それは、別にステーシー個人が弱かったとか、そういう個人のせいではなくて、男女間であれば、速攻年金の権利も何もかも貰えるのに、同性間だと、ここまでやんなきゃいけないっていう不公平とかいろいろあると思うけど、とりあえず、今のわたしは、こういう映画はいいやって感じだった。

あ、でも普通にまとまっているし、テーマがテーマなので、もう「これでもか」というくらい号泣しましたけどね!←泣いてるんじゃん!

でも「泣ける」と感動は違うんですよ。涙って、ほら、感じてなくても刺激されると濡れるのと同じで、泣けるツボを押されれば涙出るけど、だからといって感動してるとは限らないんですっ。感動するけど、泣けない映画とか文学作品って普通に沢山あるしね。

……って酷評しちゃいましたね。ごめんなさい。本当はもっとこういう映画が売れて欲しいので、「全米が泣いた!」とか書いて宣伝したいんだけど、正直な気持ちなので書いちゃいました。

レズビアン映画とレズビアン

レズビアンにとって……というかわたしにとってなんだけど、レズビアン映画は、ものすごく「いつ出会うか」というのが大事だと思う。同性愛を取り扱った作品が少ないから、どうしても自分に惹きつけながら観て、いろいろ「実用的な意味」を持たせてしまうんだよね。だから、思春期には、『South of Nowhere』や『ショーミーラブ』みたいな学園モノやカミングアウトモノが必要だし、結婚している人には『四角い恋愛関係』みたいな主婦レズモノが必要。クローゼットで生きてるレズビアンには、そういう作品が必要だし、コミュニティどっぷりなレズには、あるある内輪ネタてんこ盛りの『Lの世界』が笑える。そういう意味で、「同性婚実現前夜」に作られたこの映画も、今のアメリカには必要な映画なのかもしれない。でもこういう語りにはそろそろ飽き飽きしてきてるのも事実なんだよね。少なくともわたしは。

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↑ジュリアン・ムーアは以前にもこちら『キッズ・オールライト』でレズビアン役を熱演。コミュニティを騒然とさせました……。『アリスのままで』も観たけど、大好きな女優さんです!

今後注目のL系映画

さてさて、今回、シアターで流れていた予告編を見て、超気になったL系映画二つがございますー。

ひとつは、これも、実話を元にした話で、世界で初めて女性になるための外科手術を受けたデンマークの画家リリー・エルベを描いた『The Danish Girl』。これは、リリーの物語だけではなく、夫が女性へと性転換していくのを目の当たりにする妻ゲルダの戸惑いや苦悩なども描いてるのがポイント。面白いのが、奥さんのゲルダも画家で、絵を描く際に、モデルとして女装したのが、リリーさんが性別移行をはじめるきっかけとなったそうなんです。厳密には、レズビアン映画ではないと思いますが、十分女同士の愛情物語と言えるかなーと。

ドレスを着た瞬間「目覚めてしまう」表情が可愛いです。この人達は、実在のアーティストだったので、実際に奥さんが描いたリリーの絵とかもたくさん残っているんです。

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『英国王のスピーチ』『レ・ミゼラブル』などを手がけたトム・フーバー監督の作品。そしてアンバー・ハード様も出てる。いや、これは観るしかないでしょう!

そして、もう一つの映画は、ケイト・ブランシェットが主演する『CAROL』。

きゃあーケイト様、かっこいいっ!こちらは、もっとストレートなレズビアンのラブストーリーみたいです。こちらも絶対観たいッ!楽しみです。

皆さんも注目してるL系映画あったら教えてくださいねー!

yuichikawa.hatenablog.com

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*1:例えば……ルビー・ローズだと何となく遊び人ぽくて誠実さがないので、うーん、『ダイバージェント』のシャーリーン・ウッドリーとか。サタデーナイトライブに出てるケイト・マッキノンなんかもよさそう