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アメリカで働くレズの徒然

視聴率低迷!トランスジェンダーを取り上げたTV番組『アイ・アム・ケイト』充実した内容なのに不人気の理由とは

ケイトリン・ジェンナーのリアリティ番組『アイ・アム・ケイト』視聴率が低迷中

先日、トランス女性であることをカムアウトして大きな注目を集めた元オリンピック選手であり、キム・カーダシアンの義父ケイトリン・ジェンナー。そんな彼女を取り上げたリアリティ番組『アイ・アム・ケイト(I am Cait)』ですが、視聴率が思わしくなく、シーズン2の制作が危ぶまれています*1

人気と知名度は十分だったケイトリン

ケイトリンは今年の6月に、雑誌『ヴァニティ・フェア』で新しい女性名「ケイトリン」を公表。同日にツイッターに参加した後は、オバマ大統領を上回る記録的なスピードで100万フォロワーを達成しました。また、その前に行われた著名なジャーナリストダイアン・ソーヤーによる「カミングアウト」インタビューも1700万人が観たと言われています。

なかには「もうケイトリンの話題はたくさん!」という人もいたくらい*2

つまり、ケイトリン・ジェンナーの知名度や注目度はこれまでにないほど高かったのです。

それでは、なぜ鳴り物入りで始まったリアリティ番組の視聴率がこんなに悪いんでしょうか?

番組の評価は悪くない

実は、この番組、中身は悪くないんですよ!レビューサイト「ロッテン・トマト」では83%の評価を得ています*3

わたしも初回エピソードを観ましたが、トランスジェンダーについての教育的なメッセージやインスピレーションに満ちた、野心的な内容でした。「一人ひとりは異なるので、トランス全体のために語ることはできない」としつつも「自分のストーリーは語ることができる」として、自然とトランスジェダーへの理解が深まっていく構成になっていいます。母親が「あなたのことを『女』として見なけれんばいけないことや……『ブルース』じゃなくて『ケイトリン』と呼ばなければいけないこととか……簡単じゃないわ……簡単じゃない」と涙ぐみ、「どうして?息子を失うから?」と聞くところなど、かなりぐっときました。

ケイトリンは、自らの恵まれた立場に非常に自覚的で、トランスジェンダーの高い自殺率や、社会のトランスフォビア、トランスを狙ったヘイトクライムなどの問題に触れ、トランスであることを苦に自殺したカイラー・プレスコット(Kyler Prescott)くんの両親を訪れて、悲しみを共有します。彼の両親は、カイラーくんのトランジションにとても理解がありました。それはとてもラッキーなことですが、周りの不理解やネットいじめによって、自殺という悲劇が起こってしまいました。

カイラーくんの母親は「多くの人は、他の子どもにイジメられたからだろう、といいますが、でもそうじゃないんです。多くの『大人たち』の不理解。これが本当に彼にとって辛かったのです」と語っています。

リアリティ番組っぽくない「真面目さ」が裏目に?

このように結構頑張ってる『アイ・アム・ケイト』なのですが視聴率は最悪。その理由は「リアリティ番組」という形態と軽いエンターテイメントを求めるE!チャンネルの視聴者にあるかもしれません。リアリティ番組ってホントくだらない時間の無駄(だけどついつい見ちゃうもの)の代名詞って感じなんですが、同時にそのバカバカしさ故に高い中毒性があるんですよね。身体に悪いジャンクフードが妙に美味しい時があるように。

『アイ・アム・ケイト』は、もっと崇高なミッションを掲げて作ってあるのがわかるんですが、それが「リアリティ番組」ファンには受けなかったのかもしれません。もちろん、『アイ・アム・ケイト』も、カイリー・ジェナーやケニア・ウェストなどのセレブを登場させたり、ドタバタ要素を加えて「リアリティっぽい面白さ」を出そうとしていますが、レビューーのなかには「カーダシアン家をもっと出せ」っていうのも結構あります。人々は、結局のところ「カーダシアン一家」など、セレブ一家の一部としてのみケイトリンを見ていて、ケイトリンのトランスジェンダーとしてのメッセージにはさほど興味がないのでしょうか?

低評価の背景にあるトランスフォビア

番組のレビューを見ると、高評価する人とボロクソにけなす人にぱっきり分かれていて、なかにはもろトランスフォビアなコメントを残している人もいます。

「もしもブルース・ジェンナーが、例えば動物として心地よく感じてて、犬の格好をして、犬のように振る舞いたいと思うのなら、人々はそれをサポートするのか?」

If Bruce Jenner felt more comfortable as, say, an animal, and had the desire to act like a dog, and wear a dog costume, would people support this decision?*4

やれやれ。

個人的には、こういうことを言う人がいるからこそ、この番組の意義があると思うし、こういう人こそこの番組を観て少しずつ考えを変えてほしいなーとか思ったりするんですが。なかなか難しいんですね。

この番組は結局「リアリティ番組」として観るから「つまんない」となるわけで、もっと真面目なドキュメンタリー制作で知られるチャンネルHBOやE!チャンネルの姉妹チャンネルであるNBCの方が受けがいいのではないかという指摘も出ています。同じように中年以降でトランスした主人公を取り上げたアマゾンプライムでやっているコメディ『トランスペアレント』は既にシーズン3までの制作が決まっています。『アイ・アム・ケイト』ももっとポテンシャルあると思うんですけどね。

わたしは、たまたま自分のトランスの友人がこの番組のために働いているということもあり、この番組はもっと広く成功してほしいと思っています。